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口の中が不潔だとインフルエンザにかかりやすい?

2025.11.15

歯科コラム

インフルエンザは冬に流行する身近な感染症ですが、実は 口腔内の環境が悪いとインフルエンザにかかりやすくなる ことをご存じでしょうか?
近年、医科・歯科の研究で「口腔ケアはインフルエンザ予防に役立つ」ことが明らかになってきています。

今回は、なぜ歯周病の状態でプラーク(歯垢)が多いと感染リスクが上がるのか を分かりやすく解説します。


① プラーク内の細菌がインフルエンザウイルスを“活性化”させてしまう
インフルエンザウイルスが体内に侵入するには、
ウイルス表面の ヘマグルチニン(HA) というタンパク質が「活性化」される必要があります。

この活性化には プロテアーゼ(タンパク質分解酵素) が必要なのですが――

なんと、口の中の細菌がこの酵素を作り出してしまう のです。

特に歯周病菌(Porphyromonas gingivalis など)は、
・システインプロテアーゼ(ジンジパイン)
・セリンプロテアーゼ
・メタロプロテアーゼ

といった強力な酵素を産生します。

これらの酵素は、ウイルスのHAを 「HA0 → HA1 + HA2」 に切断し、
ウイルスが細胞へ侵入しやすい状態をつくってしまいます。

つまり、

プラークが多い → 細菌や酵素が増える → インフルエンザに感染しやすくなる

という流れです。


② 歯周病菌の酵素が「粘膜バリア」を壊してしまう
私たちの喉や鼻には、ウイルスの侵入を防ぐ 粘液バリア があります。
ところが歯周病菌がつくる酵素(プロテアーゼ、ヒアルロニダーゼなど)は、この粘液層を破壊します。

すると…

●粘膜が傷つきやすくなる
●ウイルスが粘膜の奥へ入り込みやすくなる
という状況が生まれます。

これは、歯周病があると粘膜の透過性が高くなる(epithelial permeability increase)ことが原因です。


③ 歯周病による炎症で、ウイルスの“受け皿”が増える
歯周病の炎症が続くと、喉や気道の細胞に変化が生じます。

●インフルエンザウイルスが結合する シアル酸受容体が増える
●炎症で上皮が弱くなり、傷つきやすい
●免疫反応が乱れ、ウイルスに付着されやすくなる
つまり、ウイルスにとって都合の良い環境ができてしまうのです。


④ プラーク中の細菌が“協力して”感染を後押しする
口腔内細菌はチームのように働くことが分かっています。

●歯周病菌が粘膜を攻撃し、バリア機能を低下させる
●他の細菌がプロテアーゼを供給し、ウイルスを活性化
●ウイルスが細胞に侵入しやすくなる
という 多段階のメカニズム によって、感染リスクが大きく上昇します。

プラークが多いほど、細菌の活動も活発になります。


⑤ 口腔ケアでインフルエンザ発症が1/10に減ったという研究も
高齢者施設で行われた研究では、
歯科衛生士による口腔ケアを徹底したところ、インフルエンザの発症率が約1/10に低下 しました。

これは、口の中の細菌がつくるプロテアーゼが減ったことが大きく影響していると考えられています。


まとめ:お口を清潔に保つことは“最高の感染症予防の一つ”です
歯周病の状態でプラークが多いと、

1.ウイルスが活性化しやすい
2.粘膜バリアが破壊される
3.ウイルスの受容体が増える
という3つの理由で、インフルエンザに感染しやすくなることが分かっています。

反対に、

日々の歯みがき + 歯科医院での専門的なクリーニング は、
インフルエンザを含む感染症予防に非常に効果的です。

これからの季節、ぜひ定期的な口腔ケアで健康を守りましょう。

 

 

医療法人社団 中野歯科医院

理事長 小笠原 延郎

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