日本は世界でも有数の超高齢社会となり、現在では1,300万人以上が骨粗鬆症にかかっているとされています。骨がもろくなり、転倒などによる骨折のリスクが高まるこの病気に対して、さまざまな薬剤が治療に用いられています。
■ 骨粗鬆症とは?
骨は常に「壊す(骨吸収)」と「作る(骨形成)」のバランスを保ちながら生まれ変わっていますが、このバランスが崩れて骨形成より骨吸収が上回る状態が続くと、骨がスカスカになり、骨折しやすくなります。
【骨粗鬆症の主な治療薬】
- ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)
- 抗RANKL抗体(デノスマブなど)
- 抗スクレロスチン抗体(新しい薬剤)
- ビタミン製剤、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤、副甲状腺ホルモン製剤など
このうち、BP製剤・抗RANKL抗体・抗スクレロスチン抗体は、まれに顎の骨が壊死する(薬剤関連性顎骨壊死)という重大な副作用を引き起こすことが報告されています。
■ 薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)とは?
薬剤関連性顎骨壊死とは、特定の骨粗鬆症治療薬を使用している方が、虫歯や歯周病などの歯性感染症をきっかけに、顎の骨が露出し、治りにくくなる状態を指します。
この副作用は、がんの骨転移治療や続発性骨粗鬆症(他の病気が原因の骨粗鬆症)に対しても同様のリスクがあるため、歯科治療を受ける際には特に注意が必要です。
■ 顎骨壊死を引き起こす可能性のある治療薬(代表例)
【BP製剤】フォサマック、ボナロン、ボンビバ、リクラスト、ボノテオ、リカルボンなど
【抗RANKL抗体】プラリア
【抗スクレロスチン抗体】イベニティ
■ 歯科治療を受ける際の注意点
① お薬手帳の提示を忘れずに
現在服用していなくても、過去の注射歴や将来的な治療計画に関わる場合もあります。お薬手帳を必ずご持参いただき、治療歴や投薬内容を正確に歯科医師に伝えてください。
② 注意が必要な処置
抜歯・インプラント・歯周外科など:顎の骨に直接影響する処置は、特に慎重な判断が求められます。
一般的な処置(虫歯治療・歯石除去・義歯作成など)でも、義歯などによる歯茎の傷が引き金となることもあるため、定期的な口腔内チェックが大切です。
持病や生活習慣にも注意:糖尿病・喫煙・飲酒・がんの治療歴などは顎骨壊死のリスクを高めるため、歯科医師に必ずご相談ください。
③ 休薬や治療の中断について
以前は、薬の服用を一時的に中止する「休薬」が推奨されることもありましたが、現在では必ずしも休薬が必要でないケースも増えています。とはいえ、休薬の判断は歯科医師と処方医師が連携して行うもので、患者さんの自己判断で中止してはいけません。
■ 安心して治療を受けるために
顎骨壊死は、適切な診査・治療計画・口腔管理によって予防できる可能性がある副作用です。私たち歯科医療従事者は、治療薬のリスクと向き合いながら、安心・安全な治療を提供してまいります。
日頃からの丁寧なブラッシングや定期的なメンテナンスも、健康なお口と骨を守る第一歩です。
ご不安な点やご質問があれば、お気軽にご相談ください。
医療法人社団 中野歯科医院
理事長 小笠原 延郎