
2025年9月14日(日)に一橋大学一橋講堂で開催された第27回日本先進インプラント医療学会に参加しましたので、報告させていただきます。今回の学会では、2つの大きなテーマについて学ぶ機会を得ました。ひとつは「有病者の歯科医療」、そしてもうひとつは「がん患者や骨粗鬆症患者に対してのインプラント治療」です。いずれも今後の臨床に直結する、非常に示唆に富んだ内容でした。
有病者の歯科医療の重要性
日本は超高齢社会に突入し、歯科医療現場でも有病者の患者さんが急速に増加しています。糖尿病と歯周病、インプラント周囲炎との関連など、全身疾患との関わりはますます重要視され、医科との連携や診療情報の共有が不可欠となっています。また摂食機能の維持が高齢者のQOL向上に直結することが示され、歯科衛生士を中心とした多職種連携の必要性が改めて強調されました。
がん・骨粗鬆症患者における歯科治療のリスク
厚生労働省によると、日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人が一生のうちに「がん」と診断されるといわれています。また、日本骨粗鬆症学会の報告では、骨粗鬆症の患者さんは全国で1,000万人以上とされ、今後も増加が見込まれています。こうした患者さんに用いられる 骨吸収抑制薬(ビスホスホネート製剤やデノスマブ) は、骨折予防やがん骨転移抑制に効果がある一方で、薬剤関連顎骨壊死(ARONJ) を引き起こすことが知られており、特に抜歯やインプラント治療の際には注意が必要です。
インプラントとARONJの関係
従来は「インプラント手術そのもの」がリスクとされてきましたが、近年の研究では以下のような点が明らかになっています。
①すでに埋入されたインプラントがリスク因子となる場合がある
②インプラント周囲炎など慢性炎症があると発症リスクが高まる
③投与開始前・投与中・すでにインプラント埋入済み、それぞれのケースごとにリスク評価が異なる
学会ではこの3つの臨床シナリオごとに整理された対応策が提示され、非常に実践的な内容でした。
今後の臨床への活かし方
今回の学びを通して強く感じたのは、「インプラント治療と全身疾患治療の交差」 という現代的な課題です。インプラントの成功は外科的な技術だけではなく、その後の長期的なメインテナンス、そして医科との情報共有に大きく左右されます。
骨粗鬆症やがん治療を受けている患者さんが安心して歯科治療を受けられるようにするためには、歯科医師が最新のエビデンスを理解し、適切にリスク評価を行うことが不可欠です。
当院でも、今回の学会で得た知見を活かし、全身の健康状態を考慮したインプラント治療・歯科治療を提供してまいりたいと思います。
医療法人社団 中野歯科医院
理事長 小笠原 延郎