2026年9月6日(日)、東京・飯田橋の日本歯科大学 九段ホールで開催された「第28回 日本先進インプラント医療学会 総会・学術大会」に参加してきました。
今回の大会テーマは、「インプラント治療の新たなフェーズを目指して」です。大会は9月5日・6日の2日間にわたって開催され、私は9月6日の学術プログラムに参加しました。
当日は、インプラント治療に関する最新の知見について、大学の先生方や臨床経験豊富な先生方による多くの講演が行われ、大変有意義な一日となりました。
「しっかり噛める」ことを目指したインプラント治療
特に印象に残ったのが、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 口腔顎顔面外科学分野の西條英人教授による大会長講演「歯科インプラントを応用した咬合機能再建」です。
インプラント治療というと、「歯を失ったところにインプラントを入れる治療」というイメージを持たれる方が多いかもしれません。
しかし、大切なのはインプラントを入れること自体ではなく、最終的にしっかり噛める状態をつくり、それを長期間維持していくことです。
そして、そのためにはインプラントを支える顎の骨だけでなく、その周囲の歯肉などの軟組織環境も重要になります。
インプラント周囲の軟組織の状態は、日常のブラッシングのしやすさや、治療後のメインテナンスにも関係します。症例によっては、口腔前庭形成術や遊離歯肉移植術などを行い、インプラント周囲に清掃しやすく安定した軟組織環境を整えることがあります。
つまり、インプラント治療では、骨の量やインプラントの埋入位置だけでなく、治療後に患者さん自身がお手入れしやすい口腔内環境まで考慮して治療計画を立てることが、長期的な維持管理につながります。
今回の講演を通じて、インプラント治療では失われた歯を補うだけでなく、噛む機能を回復し、その機能を長期間維持することで、患者さんの生活の質(QOL)の向上につなげていくことが大切であると改めて感じました。
インプラントの長期維持と「唾液」の重要性
このような「治療後の口腔内環境をいかに良好に維持するか」という点で、大変興味深かったのが、神奈川歯科大学 環境病理学分野の槻木恵一教授による「インプラント医療と最新の唾液学トピックス」です。
唾液というと、「口の中を潤すもの」というイメージが一般的ですが、実際には、免疫や粘膜防御、組織の恒常性などに関係するさまざまな成分を含む重要な生体液です。
特に興味深かったのは、唾液を単に「量(Volume)」だけで評価するのではなく、そこに含まれる免疫関連物質や炎症性バイオマーカーなどにも着目し、「質(Quality)」という視点から評価することの重要性です。
唾液には、口腔粘膜の免疫防御に重要な役割を果たす分泌型IgA(Secretory IgA:sIgA)をはじめ、EGF(上皮成長因子)、HGF(肝細胞増殖因子)、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)など、さまざまな成分が含まれています。
つまり、唾液は単に口腔内を潤すだけではなく、口腔粘膜を守る生体防御システムの一部として重要な役割を担っています。
さらに講演では、炎症に関連するバイオマーカーとしてMMP-8(マトリックスメタロプロテアーゼ-8)なども取り上げられました。
インプラント周囲の粘膜に炎症が起こる「インプラント周囲粘膜炎」は、さらに進行すると、インプラント周囲の骨吸収を伴う「インプラント周囲炎」へ移行することがあります。
そのため、炎症が進行してから対応するのではなく、できるだけ早い段階で変化を捉え、適切なメインテナンスにつなげていくことが重要です。
将来的には、こうした唾液中のバイオマーカーの評価が、従来の視診、プロービング、レントゲン検査などと組み合わせて、口腔内の炎症状態を把握するための補助的な方法として活用される可能性があります。
また、唾液分泌と自律神経との関係についても興味深い内容が紹介されました。
従来のように唾液腺を強く刺激して唾液を「絞り出す」のではなく、ゆっくり、優しく、撫でるような刺激や温熱刺激などを利用し、自律神経系への働きかけを考慮して唾液分泌を促すという考え方です。
高齢者や口腔乾燥を認める患者さんの口腔管理においても、唾液を単なる「分泌量」だけで捉えるのではなく、粘膜免疫、自律神経、口腔内環境などを含めて総合的に考えることの重要性を学びました。
インプラントを長く維持するために
今回の講演を通じて改めて感じたのは、インプラントを長期間良好な状態で維持するためには、インプラントそのものだけを診るのでは十分ではないということです。
インプラントを支える骨、周囲の歯肉などの軟組織、噛み合わせ、唾液、そして毎日の口腔衛生状態まで含め、お口全体を一つの環境として捉えて管理していくことが大切です。
インプラント治療は、「インプラントを入れたら終わり」ではありません。
治療前の適切な診断・治療計画から、治療後のセルフケアと定期的なメインテナンスまでを一連の治療として考え、長期的に管理していくことが重要です。
中野歯科医院では、インプラント治療後も患者さんに長く快適に使用していただけるよう、定期的なメインテナンスを大切にしています。
今回の学会で得た知識を今後の診療にも生かし、これからも新しい知識・技術を学びながら、安全性に配慮し、長期的な安定を目指した歯科医療を提供できるよう努めてまいります。
医療法人社団 中野歯科医院
理事長 小笠原 延郎